組み込みエンジニアが挑む、小売ロボット開発の最前線
- 7月13日
- 読了時間: 8分
― フランスから日本へ。「現場(Gemba)」でロボットを育てるエンジニアの挑戦 ―
100kgもの荷物を載せたロボットが、多くのお客様で賑わうスーパーマーケットを安全に走行する。その動きを支えているのが、組み込みソフトウェアです。
今回は、MUSEで組み込みソフトウェアエンジニアとして活躍するAnthonyにインタビューを実施しました。フランスから日本へ移住し、小売ロボットの開発に携わることになった経緯や、安全性が求められるファームウェア開発の面白さ、そして実店舗での「現場」検証から得られる学びについて語ってもらいました。

フランスから日本へ。そしてMUSEとの出会い
– まずは自己紹介と、MUSEに入社した経緯を教えてください。
Anthonyです。29歳でフランス出身です。現在はMUSEでロボットのファームウェア開発を担当しています。
モンペリエ大学で電子工学とロボティクスを専攻し、修士号を取得しました。在学中には6自由度ロボットアームや六脚ロボット、ドローンなど、さまざまなロボティクスプロジェクトに携わり、それがこの分野への興味を深めるきっかけになりました。
卒業後は約3年間、低消費電力の無線センサーを開発する企業で働きました。そこで組み込みシステムや低レイヤーの通信プロトコル、ハードウェアに近い領域での開発経験を積みましたが、その間はロボティクスから少し離れていました。
その後、アジア各国を旅行するためにギャップイヤーを取得し、その旅を通じて「日本で暮らしたい」という思いが強くなりました。日本でエンジニア職を探し始めたとき、「もう一度ロボティクスに携わりたい」という気持ちがありました。学生時代からずっと心の中にあった思いを、ようやく実現できるタイミングだと感じたのです。
そこで出会ったのがMUSEでした。
最も魅力に感じたのは、ハードウェア、ソフトウェア、AIまでをすべて自社で開発していることです。ハードウェアとソフトウェアの境界で仕事をする組み込みエンジニアにとって、このような一気通貫の開発体制は非常に珍しく、大きな魅力でした。
また、組み込み技術とロボティクスの両方を理解しているエンジニアは決して多くありません。近年はソフトウェアやAIを専門とするエンジニアが増える一方で、ハードウェアに近い領域を扱える人材は減っています。その分、求められるスキルも高く、実際の製品づくりに直結する課題へ取り組める点に大きなやりがいを感じています。
私にとってMUSEは、組み込み技術、ロボティクス、そして実際に社会で動く製品、この3つが揃った理想的な環境でした。
内定後はビザ取得まで約3か月間、フランスからリモートで働きました。その期間にコードベースやシステム構成、チームについて理解を深めることができ、日本へ来る頃にはスムーズに開発へ参加できました。
MUSEの組み込みエンジニアとは
– 普段はどのような仕事を担当していますか。
私が担当しているのは、ハードウェアとロボットアプリケーションをつなぐ低レイヤーのソフトウェアです。
主な業務は、モーター制御、各サブシステム間の通信、センサーとの連携などです。
上位のロボットソフトウェアは、経路計画や障害物回避など「どこへ進むか」を判断します。しかし、その判断を実際のモーター制御へ変換するのが組み込みソフトウェアの役割です。
私は、その指令を受け取り、ロボットが正確かつ滑らかに、そして何より安全に動くよう制御するファームウェアを開発しています。
ソフトウェアが実際の物理的な動きへ変わる、その瞬間を作り出していることに大きな面白さがあります。
またMUSEではECUのソフトウェアだけでなく、ロボットソフトウェアの一部にも携わっています。そのためシステム全体を理解しながら開発できる点も、この仕事の魅力です。
最も重要なのは「安全性」
– 安全性についても重要だと話されていました。
安全性は、私たちの開発において最も重要なテーマです。
どれだけ上位ソフトウェアが理想的な経路を計算しても、実際にロボットを動かしているのはファームウェアです。
もし組み込みレイヤーで不具合が起きれば、単なるエラーメッセージでは済みません。ロボットそのものが誤った動きをしてしまいます。
スーパーマーケットには、お客様やご家族、小さなお子様もいます。そのような環境でモーターが止まるべきタイミングで止まらなかったり、急加速したりすることは、重大な安全リスクにつながります。
だからこそ、安全性は後から追加する機能ではなく、設計の出発点であるべきだと考えています。
例えば、ロボットソフトウェアとファームウェア間の通信が途絶えた場合には、最後の指令を維持するのではなく、安全に停止するようフェイルセーフを設計しています。また、上位ソフトウェアからは変更できない物理的な制限もファームウェア側で管理しています。
私はよく、「ロボットソフトウェアは何をするかを決め、組み込みソフトウェアはそれを安全に実行する最後の砦である」と考えています。
「現場(Gemba)」でしか見えないことがある
– MUSEでは「Gemba(現場)」という言葉をよく耳にします。その意味を教えてください。
「Gemba」は日本語の「現場」を意味します。
※本記事は、英語で実施したインタビュー記事を日本語に翻訳・編集したものです。
私たちにとっては、ロボットが実際に稼働する店舗そのものです。
机の前だけでは、本当の課題は見えてきません。
世界のサービスロボット市場は2030年までに1,000億ドルを超える規模へ成長すると予測されています。しかし、デモ環境で動くロボットと、実店舗で毎日安定して稼働するロボットの間には、大きな違いがあります。
MUSEのオフィスにも店舗を再現した検証スペースがありますが、本物の店舗の複雑さを完全に再現することはできません。
店舗にはお客様が歩き回り、立ち止まり、買い物カートを置き、環境も刻々と変化します。
初めて混雑した店舗でロボットが稼働する様子を見たとき、オフィスとはまったく違う世界だと実感しました。
ロボットは、そのような状況でも常に安全で自然な動きをしなければなりません。そのため、モーター制御やセンサーには非常に高い品質が求められます。
また、床材の違いや走行距離、店舗ごとの環境など、オフィスでは再現できない条件も数多く存在します。
だからこそ、実際の店舗で検証を行う「Gemba」が重要なのです。
さらに、店舗スタッフから直接フィードバックを受けられることも大きな価値があります。実際にどのように使われているのかを理解し、より良い製品へ改善できます。
個人的にはもう一つ楽しみがあります。
MUSEには毎月スナック購入補助があり、店舗へ行ったメンバーがお菓子を買って帰ることが多いので、それも密かな楽しみですね(笑)。
実店舗で検証し、改善を繰り返す
– 実際のGemba検証はどのように進めていますか。
お客様の店舗で定期的に検証を行っています。
そこでロボットが期待通り動いているかを確認し、新しい機能を追加した際にはすぐにフィードバックを得られます。
オフィスだけで開発して現場で試すのではなく、店舗と開発を短いサイクルで繰り返すことがMUSEの特徴です。
私は組み込みエンジニアとして、モーターやセンサーの挙動をリアルタイムで確認し、オフィスでは再現できない状況やエッジケースを探しています。
時には、オフィスで1週間かけて完成させた機能でも、店舗の3番通路に置かれた1台のショッピングカートによって、想定外のケースが見つかることもあります。
そうした発見をオフィスへ持ち帰り、できる限り同じ状況を再現し、修正し、次回の現場で再度検証する。
この繰り返しによって、シミュレーションだけでは実現できない品質向上が生まれます。
私は、この開発スタイルこそMUSEの大きな強みだと思っています。
現実の課題に向き合い、本当に必要とされるものをつくり続けられるからです。
世界中の仲間とともに、ロボットを社会へ
フランス出身の私が、日本で、世界各国から集まったメンバーと一緒に開発できることは、とても特別な経験です。
この仕事の魅力は、製品がまだ完成形ではないことです。
店舗へ行くたびに新しい発見があり、店舗ごとに課題も異なります。その一つひとつを改善することで、ロボットは確実に進化していきます。
MUSEは、ロボットが日常の小売現場で当たり前に活躍する未来を目指しています。
その挑戦の一員として開発に携われることを、とても誇りに思っています。
そして、これから仲間とともにどんなロボットをつくっていけるのか、とても楽しみにしています。
参考文献
GlobalData, Global Robotics Market to Reach $205.5 Billion by 2030
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